2013年01月01日

十八代目中村勘三郎がやったこと、できなかったこと

ぽわん:昨年の演劇界のニュースといえば、十八代目中村勘三郎の訃報だねえ。
たぬき:歌舞伎界の希望の星だったからねえ。我々ぽわん&たぬきも落涙したものだ。
ぽわん:演劇には冷たいマスコミだけど、さすがに今回ばかりは連日、大々的に取り上げていたね。でも、勘三郎の良いところばかり扱われているから、ひねくれ者の我々は敢えてその「功罪」の「罪」の部分も考えるとしようかねえ。
たぬき:世を去った人が理想化されるのはお定まりとは言え、我々ぐらいは、ねえ。実際、彼の演劇活動すべてが絶賛に値するものでなかったのは事実。十八代目中村勘三郎なる人物を過度に美化するのは間違ってると思うんだ。


歌舞伎のメインストリームではなかった!?

ぽわん:勘三郎は歌舞伎で、立役と女方と両方やったけど、マルチプレーヤーというわけではなかったね。時代物の重い役はニンじゃなかったし、色悪とかつっころばしとかも違ったし。
たぬき:向き不向きははっきりあったと思う。彼のガラに似合う役柄は案外限定されていた。『忠臣蔵』ならまず勘平。これは間違いなく日本一、つまり世界一!
ぽわん:立役では判官がギリギリかな? 由良之助はいつか観てみたかったけどねえ。女方ではお石と戸無瀬をやったけれど。
たぬき:襲名興行での『一條大蔵譚』は、「オマエ、作り阿呆ライフを楽しみすぎだろ!」みたいな感じだった。『盛綱陣屋』の盛綱に至っては、はっきり良くなかった。少なくともあの時は、彼の限界を見たと感じたよ。
ぽわん:再び演じて、その印象を覆してくれたらよかったんだけど、その機会はなかったね。同じ「うまい歌舞伎俳優」ながら、ニンにない役でも知的に構築して自分のものにする仁左衛門とは違って、勘三郎の上手さは、魅力を見せることにある。その魅力とは何より、彼そのものの魅力だから、その魅力とそぐわないものがあったのはしかたのないことかもしれないね。
たぬき:うん。役に自分を適合させて作り込むのが上手い仁左衛門とは違ったね。かといって、ひたすら我流に持ち込んで「俺ワールド」を作る海老蔵とも違ったけど。勘三郎が仁左衛門や玉三郎と仲が良かったのは、芝居が大好きという共通点は持ちつつ、お互いのニンの違いがはっきりしてて、出来る事出来ない事がはっきりしてたからかもね。玉三郎とやった『籠釣瓶』は、まったく相容れない次郎左衛門と八ツ橋が、うっかり知り合ったばっかりに生まれた悲劇という感じで面白かった(笑)。
ぽわん:語弊があるかもしれないけど、この人達は皆、人気歌舞伎俳優だけど、厳密に言うと皆どこか、歌舞伎のメインストリームから外れていたのかもしれないね。
たぬき:そうだね。 歌舞伎には大きく分けて吉右衛門劇団系と菊五郎劇団系があるわけだけど、中村屋は吉右衛門系から逸脱して独自の道を探っていった。好きでやっていたことだとは思うけど、結果として、中村屋は自分たちだけで客を呼ばなければなかったということはあると思う。
ぽわん:それが発展して結実したのが、コクーン歌舞伎や平成中村座での活動ということになるのかな。メインストリームでなかったが故に自分でメインストリームを切り拓いていこうとしたのかもね。


観客を愛し愛されるあまり・・・

たぬき:客席に媚びるクセがあったのも、勘三郎の特徴だね。正直「そういう媚び方はしてほしくない」という瞬間はいくつもあった。
ぽわん:お約束〜なおふざけとか、予定調和的だったり、あるいは劇全体のバランスを崩していたりしたよね。そこもファンには愛されたんだけどね。
たぬき:主役を食ってしまっていたりとかね。10年前の「源氏店」の蝙蝠安なんて、仁左衛門の与三郎に玉三郎のお富という鉄壁コンビなのに、蝙蝠安の勘三郎の一挙手一投足に目が行っちゃうんだからね。あれはやっちゃいけないよ(笑)。
ぽわん:良くも悪くも、引き立て役として縁の下に回るということができなかったね。何を演じていても観客は常に彼を観てしまうし、本人も観られる自分を痛烈に意識して演じていた。
たぬき:それで思い出したけど、踊りの出端で、客席をねめ回すのは、ひどく嫌な感じがすることもあった。それは、岳父芝翫とは似ているようでまったく別のものだったよ。芝翫のねめ回しは「いいですか六代目直伝の私の踊りを皆さんよく観ておかないと損ですよ」なのに対して「僕勘三郎! みんなに会えて嬉しいよ! 今日は僕の踊りを楽しんでね!」という感じ。「いやそれって舞踊にはいらない愛嬌だよ…」と思ったものだ。
ぽわん:(苦笑)でも、そんなドヤ顔がまた可愛かったんだけどね・・・!
たぬき:踊りで言うなら、坂東三津五郎と組んだときの名コンビぶりは言うまでもないけれど、そこでも二人の違いは際立っていたね。坂東流の家元である三津五郎が楷書の踊りなのに対して、勘三郎は草書。彼の個性が何より味わいになっていた。二人が名コンビになっていたのは、有り体に言って、二人ともに身長の低さと引き換えに手に入れたキレの良さがあったということだよね。
たぬき:芝居での三津五郎の口跡がいつも明晰なのに対し、勘三郎はたまにモシャモシャした言い回しになっていたのも対照的。ヒとシが逆になる江戸言葉の使いこなしは見事だったけど。
ぽわん:江戸言葉は意識して使うようにしてたんだよね。だから、言葉に対する意識は高かったとも言える一方で、芝居によっては、微妙なニュアンスよりも、役者・勘三郎としてのセルフイメージのほうが勝ることもあったね。本人にはそのつもりはなかったかもしれないけど。
たぬき:愛されるというのは怖いことで、その人気が彼を支えたのは間違いないけど、もしかしたら、演技を高める上での障壁にもなっていた可能性はあるね。確かに、世話物ではともするとブチこわしになりかねない逸脱の危険を孕んでいた。『身替座禅』とか『棒しばり』とかの松羽目物でも、やり過ぎだと思うときは多々あったね。


新作出演&プロデュース

たぬき:勘三郎は『浅草パラダイス』シリーズとかの現代劇もやったね。面白くなかったとは言わないけど、『浅草パラダイス』は、歌舞伎の世話物では逸脱を好き放題楽しんでいた勘三郎が、まったく別種の天才・藤山直美の天衣無縫のアドリブに、なす術も無く振り回され敗れ去る姿がいちばんの見ものだった。
ぽわん:敗れ去っていたのか〜(笑)。
たぬき:ごめんなさい勘弁してください〜みたいになる感じが面白かったよ(笑)。『浅草パラダイス』の面白さって、藤山直美が勘三郎なり柄本明なりの役者をどれだけ本気で振り回すかにかかってたところがあったから。
ぽわん:『桜姫』の現代版では、ごろつきの役だったけど、似合っていないところをがんばっていたという感じかな。まあ普段はやらないような役どころをがんばる勘三郎を観るのも楽しくはあったけどね。そもそも、あの企画自体、勘三郎なしでは実現しなかっただろうし。
たぬき:そうだね。多くの場合は出演もしつつ、そういうプロデューサー的な役割を果たしたからね。彼が歌舞伎の枠をはみ出た活動をして、本業たる歌舞伎に、観客とクリエイターを連れて来たことは間違いない。
ぽわん:野田秀樹、串田和美、渡辺えり、宮藤官九郎といった作家の新作を上演したのは大きかったね。すべてが成功したわけではないけど。というより、新作では『野田版 研辰の討たれ』以外はいまひとつだったけど。
たぬき:『野田版 研辰の討たれ』ですら、再演時での色褪せ加減といったらなかった。
ぽわん:えー、わたしは再演でも楽しかったけどなあ。
たぬき:傑作って何度見ても発見のあるものだけど、あの再演では既視感こそあれ新しい発見なんて何も無かったからね。
ぽわん:まあ一度観て十分に伝わったせいもあってか、新たなものは確かにそんなになかったかもしれない。それだけわかりやすいというのも、いいことだと思うけどね。それより『野田版 鼠小僧』や『野田版 愛陀姫』の、期待はずれだったこと!
たぬき:箸にも棒にもかからない駄作だったね。まあ、古典が確立してる世界で、新作というのは失敗覚悟でやるものだから、やる価値はあったと思うけどね。
ぽわん:それより、わたしは勘三郎が、新作にすぐ洋楽を入れたがったりミュージカル風のものを入れたりしたところに、西洋コンプレックスにも近い価値観を感じていたかな。あと、彼にとっての海外というのは欧米だったし、それでいて、海外公演の観客の多くは現地の日本人とかわざわざ日本から出向いたお客さんが多かったというし、そういう意味でもちょっと「お山の大将」だったねえ。
たぬき:それはしょうがないよ。応援したい日本人もいっぱいいただろうし、オペラとは違って、演目も人材もユニヴァーサルじゃないんだから、要するに他国の人間にとっては民俗芸能でしかないわけだし。勘三郎自身はイスラム圏とかでもやりたかったらしいけど(これは唐十郎の影響かな)、赤字前提でノーギャラに近い公演を打つことはマネージメント側が許さない。だから、ペイするためには、スポンサーがついたり高いチケット代でも公演が打てる国に行くしか無いんだよね。こと新作に関しては、彼に批評的な意味でのクレヴァーさが欠けてたのは事実で、じゃないと串田和美とあれほどつるんだりはしないと思う。周囲はイエスマンばっかりだったんだろうけど、批評的な視点と役者的な資質を兼ね備えた人なんてそうはいないからね。
ぽわん:勘三郎がやったことの意義は大きいし、あんな人物はもう現れないような存在であることは間違いない。その一方で、ある種世代的な限界もあったとも思う。もし次の世代に彼の志を受け継ぐ人がいるならば、また違うグローバルな視点でやってほしいとも思うね。
posted by powantanuki at 03:10 | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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