2011年02月13日

別役実作品に望むこととは?〜MODE『マッチ売りの少女』〜

リアリズム劇だろうが抽象劇だろうが…

たぬき:今度のMODEは、別役実が二十代で書いた名作「マッチ売りの少女」に挑んだわけだけど、やっぱり主演の山田美佳には不満が残ったねえ。小市民の家庭に闖入してくるあの役は、カマトトぶったり切々としたり、みたいな紋切型の台詞回しで切り抜けられなくもないけど、やっぱりたまにはドスを効かせてほしい。キャスト4人の中では飛び抜けて若いからちょっと可哀相だけど。
ぽわん:山田美佳は、賛否はともかく、すさまじい大根役者で、リアルな演技はできない。それが味であり存在感だっていうのが松本ないし大方のスタンスみたい。まあわからなくもないんだけど、チェーホフ『かもめ』のニーナの時は、その演技がまるで通用しなくて観てられなかったからね。それに比べると、今回の少女のような「異物」的立場は合っているほうだし、頑張ってドスも効かせてたつもりだと思う。
たぬき:でも、いくらリアリズムの戯曲じゃないからといって、リアルじゃない俳優なら通用するというわけじゃないよ。そもそも、姉と弟なのに一目で弟の方が年上に見えてしまうっていうキャスティングはやめてくれないかなあ。あれって意図的なものでは絶対になくて、単に松本修は山田美佳を出したくてしょうがなくて、なのに彼女より年下に見える適当な俳優がいなかっただけだと思う。そういうのって、「別役実は抽象劇=リアルさは考慮に入れなくてよい」みたいな変な勘違いじゃない?
ぽわん:その一方で、演出テイストとしてはあんまり抽象的じゃなかったね。基本的に、松本修の演出テイストはきらいじゃないんだけど、作品によって、合う/合わないがある気がする。今回はちょっとウェット過ぎる感じがしたかなあ。雪やら黄昏風のアンバーの照明やらもだし、あと、劇の中に幾度か登場する場面転換のシュールさに余計な意味を持たせてしまって、結果的にシュールな面白さが薄れてしまったのが残念だったよ。もっと抽象的なほうが良かったなあ。
たぬき:別役戯曲すべての中でも、この『マッチ売りの少女』と『象』という初期作品2つの上演頻度はかなり高いよね。それは何故かというと、思うにこの2作は、後年ほど厳密なロジックで組み立てられていない代わりに、情緒性がたっぷりあるからなんじゃない? そういう意味で松本演出も、やっぱり情緒に寄っかかっていた。
ぽわん:そこが、さっきも言った理由で、不満だったんだよなあ。

もっと周到な仕掛けがほしい

ぽわん:わたしが好きな松本演出作はカフカ。カフカと別役は不条理性っていう点では共通するとも言えるのに何が違うかと考えるに、観るこちら側にも、カフカにはチェコのノスタルジーみたいなイメージを抱いているから、ウェットでもだいじょうぶ。でも、別役作品はドライで場所や色を限定しないのが面白さだと思っているから、ウェット過ぎると嫌なのかも。
たぬき:確かに、松本修ってスタイリストを装ったロマンティシストだなあと改めて感じたね。ただ個人的には、もっと仕掛けを作って、いないはずの弟が出現するに至るまでのドライヴ感を出すべきだったと思うけど。
ぽわん:ドライヴ感?
たぬき:えーとね、つまり不条理劇って話の展開自体は基本的に無理筋なんだから、それを納得させるだけのノリがないと空々しくなってしまうと思うんだよね。これは、人間をみんな犀にしちゃったり授業を殺人にエスカレートさせちゃったりしたイヨネスコから別役が学んだことだと思うんだけど。要するに「弟がいます」ってのは展開上の分岐点、夫婦が抱いている日常性の論理と闖入者側の論理がいったん逆転する瞬間で、そこまでに客席も舞台もエキサイトしてないと、その結構高いハードルをクリアできないんだよ。例えばジョン・クローリーが演出したtptの舞台だと、姉を演じた久世星佳の長身ゆえのヌボーとした存在感と夫婦が醸し出すユーモアで観客が沸きに沸いていて、「弟がいます」は大受けだったんだよね。これは喜劇性を強調することで難所を切り抜けた訳だけど、例えばサイコホラー的にでも理詰めっぽいアプローチでも何でもいいから、なんか仕掛けてほしかったなあ。ちなみに初演は「戦後民主主義の欺瞞を、彼らが忘却した筈のトラウマが暴き立てる」みたいな時代性コテコテの演出だったらしいよ。
ぽわん:けど、サイコホラーというのは、松本修テイストとは違い過ぎるね。MODEとしてもっと効果的に「仕掛ける」にはどうすべきだったかな? ひとつの解決策としては、姉をもっとうまい俳優が演じることかなあ? ウェットあるいはベタな演出に対して、巧みに距離をもって演じられるような?
たぬき:今回は「旅芸人」がテーマだったそうだから、旅芸人のペーソスというか泣き落としみたいな路線か? 
ぽわん:ううむ、わたしはどっちかっていうと泣き落としは好みじゃないなあ。
たぬき:そりゃあいちばん簡単なのは「弟がいます!」って宣言するだけで場をさらえるだけの力量のある女優を連れて来ることだろうさ。あと、これはどうでもいいけど、「MODEはオトナに観てもらいたい。MODEはコドモには観てもらいたくない。」ってのが謳い文句のクセに、学生料金が設定されてるってヘンじゃないか!?
ぽわん:まあでも、学生がコドモとは限らないから、それはいいんじゃない? 精神的にコドモな人はいつまで経ってもコドモだし、若くてもオトナはオトナだし。で、わたしたちはどっちかな?(笑)
posted by powantanuki at 22:16 | TrackBack(0) | 芝居の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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