2011年01月16日

コクーン『十二夜』がダメダメな理由


杜撰きわまりない演出

ぽわん:たぬきさん、随分とコクーンの串田和美演出『十二夜』にご立腹みたいだけど、どこがいけなかったと思う?
たぬき:まずはシェイクスピアの『十二夜』を上演する上での根本的な問題があるんだよね。観てない人、あるいはシェイクスピアの戯曲を未読の人には分かりにくいだろうけど、端的に言うと今回の演出は、ヴァイオラが「あーそうか、わたし、双子のお兄さんと間違えられてるんだ」と何故気づかないのかという、戯曲上の弱点に対して何のフォローもしていない。のみならず、あろうことか「わたしは始終お兄さんを思慕しております」みたいな余計な解釈を加えてしまっている。これはアンドロギュヌス的要素を加えることで一人二役を合理化する手段なんだけど、それが仇になって「ヴァイオラさん、アンタ兄さんのことが頭から離れないんだったらさっさと自分が兄さんと勘違いされてることに気付きなさいよ」と観客に思わせてしまう、杜撰極まりない演出になってしまっているよ。
ぽわん:一人二役にしたい気持ちはわかるんだけどね。お兄さんが死んじゃってて、すべてがオリヴィアだっていう設定に、無理があったってことなのかなあ。
たぬき:え? 実は死んでたの? キャスト表にはセバスチャンの名前も載ってたけどなあ。だったらますます混乱しちゃうねえ。
ぽわん:あれ? 死んでないの? 兄を思慕するあまり、自分の中に、自分と兄の二人の人格ができちゃう痛いヴァイオラちゃんのお話にしたのかと思ってた(爆笑)。
たぬき:能の『松風』じゃないんだから(苦笑)。
ぽわん:だとしたら、やっぱり無理がある構造だったねえ。あ、今更かな?


出演者は一見、豪華だったけどーー?

ぽわん:出演者はどうかな? わたしたちは別の日に観たわけだけど、松たか子ちゃんがすごく可愛かったし、笹野高史さんが味わいあったけど。
たぬき:松たか子はいつも良いね。これは唯一褒められる。でもそれだけ。次に笹野だけど、彼は本質的に脇の役者で(まあ辛抱役と言ってもいいよね)、彼が自分のニン以上に弾けた芝居をすると、彼の意図とは逆に、ある種のいたたまれなさが舞台に広がってしまう。
ぽわん:そうかあ…。わたしはいい味出してると思ったんだけどな。
たぬき:まあ確かに彼は他の役者よりずっとマシだったねえ。串田のマルヴォーリオは完全にミスキャストだよ。翻訳ものを演じさせたら何やってもスカパンみたいな芝居になる彼は、少なくとも最初は謹厳実直じゃないと後半が面白くならないマルヴォーリオという役に向いてない。そもそも、ダミ声でチビの執事なんて、サマにならないに決まってるだろ? 
ぽわん:あれは確かにいただけなかった。なんでわざわざ出演したんだろ。いい役者がやれば、すごくオイシイ役どころなのにね。
たぬき:あとは全部すっとばして、一番酷いりょう。稽古中に「ちゃんと立て」「そのしぐさは変」「ブレスが多すぎる」程度の指導はしてほしい。ブレスとかまばたきは観客の意識を切れさせるものであって、それすらコントロールできない人間がS席9,500円の舞台に立ってはいけない。
ぽわん:んむむ。りょうとしては健闘してたと思うけど、こういうキャスティングはプロデュース公演の弊害かもしれないねえ。その辺りも今度話したいね。石丸幹二の歌も好評みたいだったけど、そこ、不満なんでしょ?
たぬき:『グリーンスリーヴズ』でヴィヴラートと歌い上げを許した演出家はダメ。あれを「ミュージカル俳優なんだから当然」「観客サーヴィス」と考える人は芝居が分かってない。自分の手癖とか得意技を完全に封じることが出来るのが実力ある役者の証拠。あの歌唱法では『グリーンスリーヴス』のメロディが死んでしまうからね。
ぽわん:まあ、グリーンスリーヴスは淡々とするものだからねえ。そこまでこだわるな、と言われそうだけど。


問題はスカスカ感!?

たぬき:ところで、ぽわんさんの意見は?
ぽわん:舞台にかなり近い席だったから俳優の演技メインで観たの。むしろ全体像はちょっと近過ぎてとらえづらかった。ただ、串田演出はしっかりした原作がないとだらーーっとしちゃうから、骨組みがあったほうがいいんだけど、けっこう骨抜きになってたのは最初びっくりしたよ。ここまでポエムみたいなものを付け足すとは思わなかったからね。
たぬき:串田演出のシェイクスピアは、以前の『夏の夜の夢』でもがっつり変えてたなあ。
ぽわん:その代わり、全体的に串田演出らしい可愛らしい工夫があったけど…。
たぬき:冒頭に役者と音楽家が全員で楽器を演奏するとこがあったでしょ、いかにも串田演出っぽい。あそこで一人の女優が、小脇に抱えた打楽器を叩きながら、「なんでわたしこんなことしてるんでしょ」みたいな虚ろな表情をしてたんだよ。
ぽわん:えー、そうなの? そうは思わなかったけどなあ。
たぬき:これが象徴的だね。串田演出と言えば例の「おもちゃ箱をひっくり返したような」祝祭感覚なんだけど、それが相当スカスカになってしまっている。要するに演出家が、自分の意図するものを役者全員に行き渡らせるだけの力を最早持っていないんだ。まして観客席全体に届くはずもない。
ぽわん:そうかあ。わたしはけっこう前のほうで観ただけあって、祝祭的で楽しい感じがしたけど、ただ、全体的に作りがこじんまりとしているから、席によっては伝わりにくいかなあとは思ったよ。コクーンは決して広くないから、どの席でも「スカスカ」に感じさせてはいけないね。
たぬき:これは高齢の演出家が避け得ない老化現象で、去年、国から何やらお墨付きを授かった高名な演出家も、ここ数年の舞台のスカスカ感は相当なものだ。困ったもんだね。
ぽわん:終わり方についてはどうでしたか?
たぬき:寂しがり屋の串田っぽい終わり方だなあぐらいにしか思わなかったねえ。
ぽわん:しょっぱなから飛ばしてますねえ(笑)。まあ、おいおい話そうね!
posted by powantanuki at 20:39 | TrackBack(0) | 芝居の感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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